煮物椀三題 その三
ギシッ。
歯を入れた瞬間、そんな音が響くかのような肉体だった。
今朝獲れたばかりだという、アンコウを焼いて入れたお椀である。
そこには、あんこう鍋に見る柔らかい身ではなく、活かった凛々しさがあった。
タイラギ貝のような食感といってもいい。
噛み締めると、静かな甘みが湧き出て、舌に広がっていく。
椀ツマは加賀レンコンで、アンコウの食感との対比が、心憎い。
そしておつゆは、いつもより昆布も鰹節も濃かった。
「アンコウは、脂がほとんどないので、濃いめにしました」。
そう片折さんは言われた。
濃い出汁の中に、アンコウの滋味が溶け出していく。
最後のおつゆを飲むと、なぜか蛤のような、コハク酸のうまみがよぎる。
そのことを片折さんに伝えると、「ああ。そうかもしれません」と、静かに微笑むのだった。